「怒鳴られるわけではないのに、一緒にいると自分がどんどん小さくなっていく」「言い返すと『被害者ぶるな』と返されて、話が終わってしまう」――そんな状態が続いているなら、モラルハラスメント(モラハラ)を受けている可能性があります。
モラハラのつらさは、殴られたわけでも、はっきり侮辱されたわけでもないため、被害として認識しづらいところにあります。周囲に話しても「気にしすぎでは」と流されてしまい、かえって孤立してしまう方も少なくありません。ここでは、モラハラの典型的な言動、記録の残し方、そして職場・家庭それぞれの相談先を整理します。
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モラハラとはどういうものか
モラルハラスメントは、言葉や態度によって相手の尊厳を傷つけ、精神的に追い詰める行為を指す言葉です。法律で「モラハラ」という用語が定義されているわけではありませんが、職場で行われた場合は労働施策総合推進法が定める職場のパワーハラスメント(精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、個の侵害など)に該当する可能性があります。家庭内で配偶者やパートナーから行われた場合は、配偶者からの暴力(精神的暴力)として扱われる場合があります。
よく見られる言動のパターン
- 否定と評価:「常識がない」「そんなことも分からないのか」と人格を評価する
- 無視・沈黙:都合が悪くなると口をきかない、挨拶を返さない状態を数日続ける
- 責任の転嫁:自分の失敗を相手のせいにする、「お前がそうさせた」と言う
- 事実のすり替え:言った内容をあとから否定し、「そんなことは言っていない」と押し通す
- 孤立化:友人や同僚と会うことに強い不快感を示し、人間関係を細らせる
- 経済的な支配:家庭内で、生活費の使い道を細かく詰問する、必要な支出も許可制にする
- 二面性:外では愛想がよく、周囲から「いい人」と思われている
特にやっかいなのが、事実のすり替えです。これを繰り返されると、受けている側は「自分の記憶のほうがおかしいのかもしれない」と考えるようになります。この状態に陥ると、判断の軸が相手側に移ってしまい、自力で状況を整理するのが難しくなっていきます。

最初にやりたいのは記録を残すこと
モラハラは形が残りにくいため、記録の有無で状況が大きく変わります。職場の窓口に相談するときも、離婚や慰謝料を検討するときも、話を前に進める材料になるのは具体的な記録です。
また記録には、もうひとつ大きな役割があります。書き残しておくと、「気にしすぎかもしれない」と自分を疑ったとき、事実に立ち戻れるのです。相手に記憶を上書きされないための、自分用の証人だと考えてください。
記録に書く内容
- 日付・時刻・場所
- 言われた言葉を、できるだけそのまま書き写す
- その場にいた人(同僚、子ども、家族など)
- そのあと自分に起きたこと(眠れなかった、食事が喉を通らなかった など)
日付順に並べやすいA5サイズの方眼ノートは、持ち歩きやすく、あとから通し読みするのにも向いています。書き込む場所を見られたくない場合は、鍵付きの小型ボックスに保管する、職場のロッカーに置くといった工夫をしている方もいます。会話そのものを残したい場合は、長時間録音に対応した小型のICレコーダー(ボイスレコーダー)を使う方法もあります。
録音や記録の扱い方、証拠としての評価は状況によって異なります。取得した内容をSNSなどに公開すると別のトラブルにつながる可能性があるため、相談窓口や弁護士に見せる目的にとどめてください。また、家庭内でのモラハラで身の危険を感じる場合は、記録づくりよりも安全の確保を優先してください。
職場でモラハラを受けている場合の対処法
1. 接点を減らす
やりとりを口頭からメールやチャットに寄せると、記録が自動的に残るうえ、その場で追い詰められる場面を減らせます。「あとで確認したいので、テキストでいただけますか」と伝えるだけでも、言動が落ち着くケースがあります。
2. 反応を最小限にする
強い言葉に感情で返すと、消耗が大きくなるうえ、あとから「双方に問題があった」と整理されてしまうことがあります。事実確認だけを返し、評価や人格の話には乗らないという構えが自分を守ります。
3. 味方を一人つくる
信頼できる同僚や先輩に、状況を簡単に共有しておきます。第三者が「そういう場面を見た」と言えるかどうかは、あとで大きな差になります。
4. 社内窓口に相談する
事業主にはハラスメント防止の措置義務があり、相談窓口の設置もその一部です。人事部門、コンプライアンス窓口、労働組合、産業医などが候補になります。相談したことを理由に不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。
5. 社外の公的窓口を使う
社内窓口が機能していないと感じるときは、各都道府県労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーを利用できます。労働問題全般について無料・予約不要で相談でき、受付は平日の9時30分から12時、13時から17時としている窓口が多くなっています。
働く方向けのメンタルヘルス相談としては、こころの耳電話相談(0120-565-455)があります。平日17時から22時、土日10時から16時に対応しており、勤務後の時間帯に相談しやすい窓口です。詳しい情報は厚生労働省のこころの耳で確認できます。

家庭内でモラハラを受けている場合の対処法
配偶者やパートナーからの精神的な攻撃は、配偶者からの暴力として相談できます。「手を上げられていないから相談する資格がない」と考える必要はありません。
主な公的窓口
- DV相談+(プラス):内閣府が実施する相談窓口です。電話 0120-279-889 で24時間365日受け付けており、チャット相談やメール相談にも対応しています。外国語での相談にも対応しています。
- DV相談ナビ(#8008):電話をかけると、発信地から最寄りの相談機関につながります。
- 配偶者暴力相談支援センター:各都道府県の女性相談支援センターや男女共同参画センターなどが担っています。
- みんなの人権110番(0570-003-110):法務省の全国共通人権相談ダイヤル。平日8時30分から17時15分に受け付けています。
- 法テラス:離婚や慰謝料など法的な手続きを考えるときの相談先を案内してもらえます。条件を満たす場合は無料の法律相談を利用できる制度があります。
相談窓口の一覧や利用の流れは、政府広報オンラインの解説ページにまとまっています。人権相談の常設窓口については法務省のページを確認してください。
相談するときに用意しておくとよいもの
- 出来事の記録(日付順のメモ)
- やりとりのスクリーンショット
- 心身の不調で受診した記録がある場合はその情報
全部そろっていなくても相談はできます。「何もないので相談できない」と思い込まないでください。
やらないほうがよい対応
- 相手を論破しようとする:事実のすり替えを繰り返す相手に対しては、議論が消耗にしかならない場合が多くあります
- SNSで実名を挙げて告発する:名誉毀損など、別のトラブルに発展する可能性があります
- 「変わってくれるはず」と待ち続ける:期待と落胆の往復自体が心を削ります
- 誰にも言わずに耐える:孤立するほど、相手の言い分が正しく感じられるようになります

心身のサインが出ているときは医療機関へ
モラハラを受け続けると、自己評価が下がり、判断力や集中力にも影響が出ることがあります。次のような状態が2週間以上続いているなら、心療内科や精神科など医療機関への相談を検討してください。
- 寝つけない、夜中に何度も目が覚める
- 食欲が極端に変化した
- 相手の顔を見ると動悸がする、声を聞くと体がこわばる
- 好きだったことに関心が持てない
- 自分を責める考えが頭から離れない
受診の際は、記録しておいたメモを持参すると状況を短時間で説明できます。診断書は、休職や法的手続きを検討するときの材料にもなります。
「病院に行くほどではない」と感じる段階でも、自治体の精神保健福祉センターや公的な電話相談は利用できます。まず話を聞いてもらう場を持つことが、次の一歩につながります。
自分を立て直すためのセルフケア
相談や手続きには時間がかかります。その間、削られた自己評価を少しずつ戻していく作業も並行して進めたいところです。
安全な時間を確保する
相手と接しない時間を、意識的に予定として確保します。散歩、図書館、カフェ、実家。場所はどこでも構いません。大切なのは「相手の言葉が届かない時間が1日のどこかにある」という状態をつくることです。
眠りを守る
緊張が続くと、眠りが浅くなりやすくなります。寝室の光が気になるなら遮光カーテンや立体構造のアイマスク、物音が気になるならフォームタイプの耳栓など、環境の側から整えるほうが取り組みやすいでしょう。寝る前にスマートフォンを寝室から出しておくだけでも、頭の中の反すうが落ち着きやすくなります。
「事実」と「言われたこと」を分けて書く
ノートを左右に分け、左に起きた事実、右に相手から言われた評価を書き分けてみてください。並べてみると、その評価が事実に基づいていないことに気づきやすくなります。自分の輪郭を取り戻すための、静かな作業です。
信頼できる関係を細らせない
モラハラの状況では、人付き合いが減っていきがちです。連絡を取りづらくなっていた友人に、短いメッセージを送るだけでも構いません。外の世界とつながっているという感覚は、判断の軸を自分の側に保つ助けになります。
気持ちを書き留めて整理する方法のひとつとして、スマホで記録できるAIセルフケアアプリのAwarefy(アウェアファイ)もあります。日々の感情を記録して振り返る機能があり、無料プランも用意されています。医療機関や公的な相談窓口の代わりにはならないため、安全の確保と相談を優先したうえで、日常のセルフケアの一つとして検討してください。詳しくは公式サイトで確認できます。

よくある質問
Q. これがモラハラに当たるのか、自分では判断できません
A. 該当するかどうかを自分で確定させてから相談する必要はありません。総合労働相談コーナーやDV相談+では、「こういうことがあるのですが」という段階の相談も受け付けています。判断は窓口と一緒に進めれば問題ありません。
Q. 証拠がまったくありません。それでも相談できますか
A. 相談できます。窓口では、まず状況を聞き取ったうえで、今後どのような記録を残しておくとよいかを助言してもらえます。今日から書き始めた記録も、立派な材料になります。
Q. 家族から「あなたにも原因がある」と言われました
A. 身近な人ほど、両方に気を遣った言い方になりがちです。判断の材料が偏るため、身内以外の第三者(公的窓口やカウンセラー)の意見も聞いてみてください。
Q. 職場のモラハラで会社を辞めたいのですが、記録は残すべきですか
A. 退職後に労災申請や損害賠償請求を検討する可能性があるなら、在職中に記録や資料をまとめておくほうが安心です。退職後は入手しにくくなる情報があります。
Q. カウンセリングは受けたほうがよいですか
A. 自己評価が大きく下がっている場合、話を聞いてもらう場があると気持ちの整理が進みやすくなるとされています。自治体の相談窓口や職場のカウンセリング制度など、費用を抑えて利用できる選択肢から検討してみてください。
身近な人には話しにくい気持ちを整理したいときの選択肢として、エキサイトお悩み相談室もあります。カウンセラーを自分で選び、電話またはメールで相談する仕組みで、料金はカウンセラーごとに異なります。医療行為ではなく診断や治療の目的では使えず、安全が心配なときや体調が悪いときは受診や公的な窓口を先にしてください。詳しくは公式サイトで確認できます。



まとめ:判断を自分ひとりに背負わせない
モラハラは、被害として認識しづらいまま長期化しやすいのが特徴です。だからこそ大切なのは、記録を残すことと、外部の目を入れることの2つに尽きます。
職場なら総合労働相談コーナーやこころの耳、家庭内ならDV相談+やDV相談ナビ、人権に関わることなら、みんなの人権110番。いずれも無料で利用でき、匿名で話せる窓口も用意されています。
「これくらいで相談していいのか」と迷った時点で、すでに相談する理由は十分にあります。今日はまず、出来事を1行書き残すところから始めてみてください。心身の不調が続いている場合は、医療機関への相談も並行して検討しましょう。
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