「処方された薬が何のためのものか分からないまま飲んでいる」「調子がいいから、そろそろ減らしてもいいのでは」――双極性障害の治療では、こうした疑問が出てくる場面が多くあります。
ここでは、双極性障害(双極症)の治療で用いられる薬の種類と、それぞれの位置づけを整理します。具体的な薬の選択や量は医師が個々の状態に合わせて決めるものであり、自己判断で増減したり中断したりしないでください。この記事は治療内容を理解する手がかりとして読んでいただくためのものです。
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治療の全体像:薬物療法と心理社会的治療
国立精神・神経医療研究センターのこころの情報サイトの解説によると、双極性障害の治療では薬物療法を基本に、心理社会的治療を並行して行うとされています。
薬物療法は、躁状態やうつ状態の症状を落ち着かせることと、波の再発を抑えることの両方を目的とします。心理社会的治療は、病気について学び、自分の波の前兆や生活リズムの整え方を身につけていく取り組みです。
どちらか一方だけでは十分でないことが多く、両輪で進めるのが基本とされています。生活の工夫だけで治療の代わりにすることはできません。

気分安定薬とは
気分安定薬は、気分の波を小さく保つことを目的として使われる薬のグループです。代表的なものとして、炭酸リチウム、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、ラモトリギンなどが挙げられます。
炭酸リチウム
双極性障害の治療で長く使われてきた薬です。躁状態の治療や再発予防に用いられます。血液中の濃度を測る検査を定期的に行いながら使うのが一般的で、通院と検査を続けることが前提になります。脱水や他の薬との関係で濃度が変わることがあるため、体調不良のときは早めに主治医へ相談してください。
バルプロ酸ナトリウム・カルバマゼピン
もともとはてんかんの治療に使われてきた薬で、気分安定薬としても用いられます。急な躁状態や、躁とうつの症状が入り混じった状態に対して使われることがあります。
ラモトリギン
国内では、双極性障害における気分エピソードの再発・再燃を抑える目的で使われる薬です。躁状態やうつ状態が出ている急性期の治療薬としての位置づけではない点は、押さえておきたいところです。皮膚の発疹に注意が必要とされており、開始時にゆっくり量を調整していく方法が取られます。飲み始めに発疹が出た場合は、自己判断で続けず主治医に連絡してください。
非定型抗精神病薬とは
非定型抗精神病薬は、統合失調症の治療に使われてきた薬ですが、双極性障害でも用いられます。国内で双極性障害に対する使用が認められているものとして、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンの徐放性製剤、ルラシドンなどが挙げられます。
躁状態への対応、うつ状態への対応、再発予防など、薬によって位置づけが異なります。気分安定薬と組み合わせて使われることもあります。
体重の変化、眠気、代謝への影響などが起こることがあるため、定期的な体重測定や血液検査を行いながら経過を見ていくのが一般的です。
ここで挙げた薬の名前は、治療で用いられる代表的なものを紹介したものです。どの薬が適しているかは状態や体質、他の持病によって異なり、医師の判断で決まります。この記事を根拠に薬を希望したり、自分で調整したりしないでください。
抗うつ薬の扱いには注意が必要とされる
うつ状態が続くと、抗うつ薬を使ってほしいと感じる方もいます。ただし双極性障害では、抗うつ薬の使用によって気分が高揚する方向に振れたり、波が短い間隔で繰り返されたりすることがあると指摘されています。
そのため、抗うつ薬を単独で使うことには慎重な判断が求められます。うつ病として治療を受けていた方が、途中で双極性障害と分かって処方が変わることがあるのは、こうした背景があるためです。
過去の治療で調子が崩れた経験がある場合は、その経験を主治医に伝えることが大切です。

薬を飲み続けるうえでの現実的な工夫
「飲んだかどうか分からなくなる」「調子がいい日ほど飲み忘れる」といった困りごとは、服薬を続けるなかで起こりやすいものです。服薬を続けること自体が治療の一部なので、記憶に頼らない仕組みを作っておくと安心です。
- 曜日ごとに分けられるピルケースを使い、飲んだかどうかを目で確認できるようにする
- 日付欄の大きい壁掛けカレンダーに、飲んだ日を印だけつける
- スマートフォンのアラームを毎日同じ時刻に設定する
- お薬手帳カバーにまとめ、複数の医療機関にかかるときも一冊で管理する
また、体調の変化を記録しておくと診察で役立ちます。バーチカルタイプの手帳やB6サイズのノートに、その日の気分・睡眠時間・気になった出来事を1行だけ残す方法が続けやすいという声があります。
飲み忘れが続くときは、隠さずに主治医へ伝えてください。回数や時間を調整することで、続けやすい形に変えられる場合があります。
心理社会的治療という土台
薬物療法と並行して行われるのが、心理社会的治療です。病気の仕組みを学ぶ心理教育、生活リズムを整える取り組み、家族を含めた支援などが含まれます。
自分の波の前兆を知る
「睡眠時間が短くなる」「買い物が増える」「人に連絡を取りたくなる」など、波の入り口には人それぞれのサインがあります。記録を続けるうちに見えてくることが多く、早めの相談につながります。
生活リズムを一定に保つ
起床時刻と就寝時刻をなるべく固定すること、夜更かしを避けること、アルコールを控えること。睡眠の乱れは状態を不安定にしやすいとされているため、生活面の中でも優先度の高い項目です。壁掛けのカレンダーに起床時刻だけ書き込んでいく形なら、手間をかけずに続けられます。
周囲と情報を共有する
高揚している時期は自覚を持ちにくいため、家族が気づいた変化を伝えられる関係をつくっておくと、対応が早くなります。
治療費の負担を軽くする制度
通院が長期になる場合、医療費の負担が気になる方もいます。精神科への通院には、医療費の自己負担割合を軽くする自立支援医療(精神通院医療)という制度があります。
申請の窓口は市区町村で、主治医の診断書などが必要です。利用条件や手続きは自治体によって案内が異なるため、通院先の医療機関の相談員か、住んでいる自治体の窓口で確認してください。働きながら治療を続ける場合の制度については、厚生労働省「こころの耳」にも情報がまとまっています。

治療の段階によって目的が変わる
同じ双極性障害の治療でも、いまがどの段階かによって薬の使い方や目標は変わります。ここを理解しておくと、処方の変更に戸惑いにくくなります。
急性期:症状を落ち着かせる段階
躁状態やうつ状態がはっきり出ている時期です。この段階では、まず症状を落ち着かせることが優先されます。仕事や家事を通常どおりこなそうとせず、休養を確保することも治療の一部です。周囲から見ると「休んでばかり」に映るかもしれませんが、この時期の無理は回復を遠ざけることがあります。
回復期:状態を安定させていく段階
症状が和らいできても、すぐに元の生活量に戻すと反動が出やすい時期です。活動量を少しずつ戻しながら、生活リズムを整えていきます。薬の量や種類が調整されることが多いのもこの段階です。
維持期:再発を抑える段階
症状が落ち着いている時期でも、治療は続きます。この段階の目的は、次の波を小さく保つことです。調子がよいと「もう必要ないのでは」と感じやすい時期でもありますが、ここでの中断が再発につながることが少なくありません。安定している時期にこそ、治療を続ける意味があります。
受診のたびに状態を言葉にしておく
段階が変わる判断は、日々の状態の積み重ねから行われます。「先週より睡眠が1時間短い」「人と会うのが億劫になってきた」といった小さな変化を伝えられると、調整が早くなります。記録を持参する習慣が、ここでも役に立ちます。
日々の状態を言葉にしておく方法として、アプリで記録する選択肢もあります。Awarefyは、日々の気分や出来事を記録して振り返れるセルフケアアプリで、無料プランでも基本的な感情記録機能が使えると案内されています。薬や治療の代わりではなく、毎日の気持ちを整理するための選択肢のひとつです。服薬や治療の判断は、これまでどおり主治医と相談して進めてください。詳しい内容は公式サイトで確認できます。

双極性障害の薬と治療に関するよくある質問
Q. 調子がよくなったら薬をやめられますか?
A. 状態が安定してからの方針は、経過を見ながら医師が判断します。自己判断での中断は波の再発につながることがあるため避けてください。減らしたい気持ちがあるなら、その希望を診察で率直に伝えるのがよい方法です。
Q. 副作用が心配です。
A. 薬の種類によって起こりうる変化は異なります。眠気、体重の変化、手のふるえなど、気になる変化があれば我慢せず主治医に伝えてください。量や種類の調整で対応できる場合があります。
Q. 市販のサプリメントで代わりになりますか?
A. 治療薬の代わりになるものではありません。また、飲み合わせによって薬の働きに影響が出ることもあるため、使用を考えている場合は事前に主治医へ相談してください。
Q. 通院はどのくらいの間隔になりますか?
A. 状態によって異なります。不安定な時期は間隔が短く、安定してくると延びていくのが一般的です。次回の受診日は診察で決まります。
Q. 主治医に質問しづらいです。
A. 診察時間は限られているため、聞きたいことを事前にメモして持参する方法が有効です。「何のための薬か」「いつまで続ける見込みか」「気をつける症状は何か」の3点は、多くの方に共通して役立つ質問です。
まとめ:薬の役割を知ることが、治療を続ける力になる
双極性障害の治療では、気分安定薬や非定型抗精神病薬を中心とした薬物療法と、心理社会的治療を組み合わせて進めていきます。どの薬をどう使うかは、状態や体質に応じて医師が判断します。
自己判断での中断や増減は避け、気になることは診察で伝えてください。制度や相談先について確認したいときは、国立精神・神経医療研究センターのこころの情報サイトが入り口になります。治療を続けられる形を医師と一緒に探していくことが、安定した期間を長く保つことにつながるとされています。
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